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『バズー!魔法世界を詠む』 これまでのあらすじ
『テオの日記』 - 002

2015/01/07 WED

僕は偉大な魔法使いになるんだから、最前線に出るのは間違っているのだ。
そういう野蛮な仕事は、勝手に仕事を引き受けたロマールなんかがやればいい。
まあ、今は何の呪文も覚えていないけど、ごっつい骨に殴られたりしてこの美しさを損なうのは僕だけの損失とも言い難いし、僕は薬草を握りしめて援護に徹する事にした。

妙にこの砦に詳しい思っていたら、ミマスは幼い頃、盗賊団に襲われ一族を奴隷として連れ去られてしまったらしい。
彼女のぼそぼそとした喋り方も、そのせいで他人と打ち解けられなくなってしまったからだと、ロットが言った。
まあ、僕はそんな事よりも彼女が「特技は弓矢です」と言っておきながら、それを一向に使わない経歴詐称の方が気になっていたのだけれど。

でもよく考えれば、偉大なるリカルドを父に持つ僕も含めて、ここに魔法の素養を持つ者達が三人も集まっているというのはとんでもない事だ。
パル教の司祭とジプシー……彼らは一体何者なんだろう?

盗賊なんていう下品で臭い人達は、大抵大した事がない。
秘密兵器の僕が出るまでもなく、ミマスの色仕掛けなんかが成功して倒せてしまった。
囚われた人々を解放した僕らは、奴隷組織の金を巻き上げ、雑に置いてあったブレス家の印を持って、さっさと引き揚げようとしていた。
だけど表に出た時に、多くの盗賊達とその頭クロイゼルと鉢合わせしてしまったんだ。

尖った耳と灰色の皮膚。
魔法を使いこなすクロイゼルは、何とあの騎士団時代に地下帝国ごと封印された魔物、ベラニード族の生き残りだった!
と、奴のチャームでずっと意識を失っていた僕は、後から聞いた。
クロイゼルは才ある僕の目覚めを警戒して、ダークネスに紛れ逃げ去ったらしい。
それにしても、かつて人類に退けられた者達の生き残りが、人類を奴隷として商売道具にしていたなんて……、とんでもなく生意気だ。

その帰り道で恐れていた事が起きた。
ロットとミマスがこの事を報告するため、ネーリアへ帰ると言い出したのだ。
ネーリアはラルファンの南に接する、ネーファン王国の都市である。
彼らは「この恩は忘れない」なんて言ってたけど、僕はろくな防具も着けていなかったミマスに、拾ったレザーアーマーを投資していた事だけを考えていた。
だからその服だけでも置いていって欲しかったのに、ロマールが何も言い出さないから、彼らはそのまま去って行ってしまった。
ロマールって、気が利かない奴だ。

ハイブレスの人々は喜び、お爺ちゃんに至っては僕に跡取りになれとまで言い出した。
でも僕は断った。
こんな寒い所の跡取りなんか、ロマール辺りがやればいい。
お爺ちゃんは残念そうに、リカルドの形見である魔道士の指輪を僕に手渡し、厳しく当たってきたのは僕を危険な職である魔術師にしたくなかったからだと言った。
母さんの気持ちを考えての事だった。

お爺ちゃんは、騎士団に入ると言うロマールの決意も聞き入れ、フレイムソードを渡した。
そして自分は東の果てにあるワタール帝国に大使として赴くため、早くても五年は戻ってこられないと言った。
「これからはお前達に何もしてやる事が出来ん……」
お爺ちゃんもまた、戦ってるんだ。
だから僕も、道中で故郷の村に寄るなんて甘えた事は出来ない。
ロマールと二人でセラスへ急いだ。

北部で最大の都市、セラス。
雑貨屋で買った地図を見ても、それは一目瞭然だった。
町中にはとてつもなく大きな食堂が、港が、城があり、魔術学校や騎士団もある。
魔術師としての才がなかった事で居づらさを感じる男の人や、魔術師と結婚したいと夢見る女の人がいて、さすがは魔術国家の中心だと思えた。
教会では、「最近パルの奴らがでかい顔をしている。フェスター教も値段を下げて対抗した方がいい」なんて話も聞けた。
水夫達は、ウル族という海を渡る獣の噂を語らっている。

ロマールは騎士団へ入っていき、リカルドの血を引く美少年もついに魔術学校へ。
いじめとかはなかった。
別に怖くもなかったし。

魔術学校は広い。
膨大な書物のある図書館、魔法習得施設、魔術ギルドの本部、生徒達の寮。
左右に広がる研究室では、学校を卒業した魔術師達が師匠に付いて、毎日専門の魔法を研究している。
寮はまあまあ良い部屋だった。
翌日にはリカヴァとチルを習得していた天才には、まだまだ相応しくないけれど。

僕は持ち前の美しさと才能で、瞬く間に魔術師認定試験にまでこぎ着けた。
この試験では、試練の塔の最上階まで辿り着けば魔術師の弟子として認められる。
だけど姑息!
この塔が姑息!
僕は落とし穴に落ちて試験に失格してしまったのだ。
落とし穴に落ちて、魔術師認定試験に。

頭にきたから、今度はなけなしのお金をはたいて破魔レベル1と2のディスイービルとレクターを習得して挑んだ。
邪悪なものに対する攻撃魔法と、睡眠麻痺混乱を治療する魔法だ。
これまでこの試験に一発合格出来たのはラルファン一の魔道士で探索者だったリカルドと、この魔術学校の長であるナルメシア・シェンだけらしい。
そう聞いた時は惜しい気もしたけど、落とし穴やなぞなぞ、毎回踏んでしまう薄ーい毒床に引っかかる内にどうでもよくなってしまった。
結局四回も繰り返し挑戦して、僕は合格を勝ち取った。

「君がなだらかな道を選ぶなら、魔術を極める頃には、老人になっているだろう」
この言葉だけが心に残っていた。
天才と呼ばれた父さんもまた、そんな風に生き急いでいたのだろうか?
そういえば、いつの間にか時は過ぎ、僕ももう十七になっていた。

破魔、召喚、探査、魅了、幻影、精霊、生命、変容。
八つの魔法の中で、今は召喚と精霊、そして変容の師匠がいる。
三人とも個性的、というより胡散臭かったけれど、僕はその中で痩せ細った爺さん、ランダル師匠を選んだ。
召喚魔法……、下僕を付き従える魔法なんて、天才美少年に相応しい大物感がある。

ランダル師匠は早速、「ハイブレスに行ってサンジェの秘薬とベルダンの秘薬を受け取ってきて欲しい」と、島の反対側を指さして簡単そうに言った。
何て人使いが荒くて美しくない老人だろう!
でも召喚呪文レベル1のサモニング教えてくれた。

出発までの日々は、魔術学校の大図書館で様々な本を読んでいた。
火の神リドを信仰する広大な帝国「サーセス」
未だに原因の判明しない「大災厄」
遙か南にあるエルフ族の森「クレ・ア・クォーラス」
ガゼルファン帝国の末裔である三国による「三国同盟」
大災厄の影響を受けなかった唯一の土地「古の地ファーム」
あのパリス大食堂も紹介されている「セラスグルメガイド」
頭が狼の獣人「ウル族」
今や水没してしまった古代ガゼルファン帝国の首都「パメラ」
星読みのシーラも紹介した「占いガイド」
裁判の神ファルを崇める「東の国ザイン」
ヴァメルに伝わる不死王「ジャラ伝説」

ここには本当に世界中の智恵が集まっている。
大災厄により不在となったレベル8を除く、全ての魔法の解説もあった。
印象的だったのは、神の実在や不老不死を、非魔術的な迷信と頑なに否定していた事だ。

そうそう、ロマールはロマールでむさ苦しい騎士団の中で上手くやっているようだったが、最近は互いに忙しくて会話を交わす回数も減っていた。
だけど出発する時には挨拶に行ってやった。
何せ初めての一人旅だったから。

「あの爺さん!」と僕は道中で何度も叫んだ。
思ったよりも、サモニングが敵に効かなかったから。
でも一度は通った道だし、ハイブレスまでは何とかやってこられた。
ブレスお爺ちゃんは居ないけれど、人々はあまり変わらなかった。
あの懐かしい安宿、グリフォン亭も。

師匠にはばれないように、少し周辺で小遣い稼ぎをして、スマッシュリングを買った。
もう父さんの形見である魔道士の指輪を持っているけど、こういうのを一度見てしまうと揃えずにはいられない僕なのだ。
決してロマールのために買ってあげた訳じゃあない。
まあ、どうしても僕の盾になりたいと言うのなら、考えてやらないでもないけど。

オークなんかが出てくるとヒヤッとする。
それでも僕はセラスへ辿り着き、師匠から召喚レベル2のグールを教えてもらった。
丸い死者の霊が現れて敵をガブガブやる魔法だ。
早速セラス郊外へ走って行って、嬉々として撃ちまくってやった。
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