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『ポンコツロマン大活劇バンピートロットを詠む』 これまでのあらすじ

『キニス・プルウィア』 - 005

コニーがフェンネルに謝っている姿を見た時、キニスは心のどこかが締め付けられるように感じていた。
こんな大都市に、こんな高級ホテルに足を踏み入れた事で、ひどく落ち着かなかったから。
その一室に佇むフェンネルの鋭く洗練された姿が、余りに遠いものに見えたから。
コニーがあのネフロネフロの町に駆け付けてくれた事で責められるのが、数少ない自分と世界との繋がりを断つもののようにも感じたから。

しかしフェンネルは、俺はあくまで俺の音楽の為にバンドを抜けたのだ、と言った。
彼の頭の中だけにある、革命的な彼の音楽……。
電気で走る電車を思い浮かべ、夢を語るその口ぶりに、キニスは自分の頭の中には一体何があるだろうかと考えた。

「コニーの事は頼んだぜ」
コニーが帰った後、フェンネルはそう呟いた。
抜けたギターはお前が弾けばいいと彼は言ったが、彼女が重く受け止めたのは、きっとコンサートの事だけではないはずだった。
ハーモニカを吹きながら、隣で必死にギターを弾いて歌う彼女の横顔を見れば、聞かずとも分かる事だ。

トロット楽団に参加しての初めてのライブが終わり、都会の夜風は涼やかだった。
道路に行き交うライトを眺めていると、ふと昼間に覗いた証券取引所の光景が思い出された。
日々刻々と変わる株価のように、世界も、人も、人生も動き続けている。

隣同士でいがみ合うホテルの支配人と、愛し合うその子供達。
夜は闘技場でAランク選手として活躍しながらも、粗末な小屋で借金取りに追われる男を匿う女。
アーバンスクエア新聞社では、ハッピーガーランド駅前広場で起きた自動車事故の記事を読んだ。
ダンディリオンの弟チコリが、セントジョーンズ郷の子弟と遊んでいる時に誤って道に飛び出した、と。

ロブスター亭の部屋に戻ると、バジルが「明日はよろしく」と言ってきた。
キニスがビークルを出して、調子が悪い彼のベースをダンディリオンの楽器工房に持っていくのだ。
話に聞いていた彼に会うのを思うと、何故だか少し緊張した。
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