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『wizardryで物語る』 Appendix Story
彼らに纏わる話 013

明日の存在が許されないこの迷宮の中で、ゾフルの戦闘哲学は大変な人気です。
時間も、生死すらもその本質から外してしまった、彼の「戦術的価値」。
町の一角ではよく将軍の声が響き渡り、彼を慕う連中が的外れな議論を交わしているのです。

「例えばだ! 時計にゴチャゴチャと装飾をして、正確な時間が分からない! そんな飾り付けられた時計をじっと見て眉をしかめているのは、この世で最も阿呆な生き物だと儂は思う!」

何か聞かれれば、彼は必ず明快な答えを返してくれますが、会話全体を見回すとどんな意味合いで言っているのかよく分かりません。
しかし窟世界では生きられなかった、と自称しているゾフルですが、どうやら彼もまたドワーフらしく、機能美に執着があるようです。

オクサナは違います。
彼女もこの迷宮では大変な人気なのですが、彼女の道具好きは機能美とは全く別の出所らしいのです。
迷宮内をフラフラと動きながら何らかの商売をしている彼女は、どう見ても「役立たず」で「グズ」な者達と楽しそうに話をしている姿が度々目撃されています。

「ウチはいつも人を救っていて、それでいつも酷い目に遭っている! 分かるぞ、お前の気持ち」

彼女は何か聞かれても、決して簡単には答えず、答えたとしてもニヤニヤしていて、それが本当かどうか分かりません。
まるで全てが演出であり、その言葉が作る虚像で目の前の価値観を支配しようとしているかのようです。
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