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『wizardryで物語る』 Appendix Story
彼らに纏わる話 022

「早起きだな」
目を擦るアンディは、声をかけてきたのがサイードだと知って少し驚きました。
アイリーンが彼の世話を命じたサイードとは、一緒にいる時間が最も長いのですが、普段この忍者が自分から口を開く事は殆どなかったのです。

アンディは何だか嬉しくなって、躊躇いがちに昨日あった出来事等を話し出しました。
サイードは少し困った顔をしましたが、それでも耳を傾けているようでした。
そして何故この子供が素っ気ない自分に懐いてくるのだろうかと疑問に思いました。
子供が何を考えているのか、彼にはまるで分かりませんでした。

幼子は人を殺せない。
彼は幼少の頃、その考えを逆手に取った仕事をしていました。
それ以外には何も知りませんでした。
無数の兄弟達は誰一人家族という言葉の意味を知らず、既に失われた国土に自分達の居所を定められ、戦い続けていたのです。

勘違いだった。
失せた国家を取り戻す事は出来ないとアイリーンに教えられたサイードは、レベリオの血を持つ連中が、その繋がりを保つ事で勘違いに縋り付いていると気付いたのでした。
気付いたはずでした。
そしてこの世に溢れかえるそんな弱い者達を、哀れだと見捨てたのです。

しかしアイリーンが見せてくれた夢も、今や夢に消えつつありました。
自由を生きる冒険者の中で、彼女に役目を与えられたのでしたが、上手くはいきませんでした。
レベリオもローベルトも、彼の腕前を求めていたのは確かでしたが、彼らは揃ってサイードの名を口にせず、死を厭わぬ者とだけ呼びました。

今更別のものになんてなれる訳がないんだ。
と、オクサナが言います。
結局操り人形じゃないか。
と、オクサナは続けます。
いつしか、下らない苛立ちやつまらない嫉妬を、アンディに対してすら抱いていると気付き、サイードは自身の弱さに愕然としました。

とんだ勘違いだったのかも知れません。
彼はまるで、新たにこの世に産み落とされた赤子のようでした。
今目の前にいるこの迷宮に迷い込んだ少年よりも、何も知らなかったのですから。

「いいなあ。サイードお兄ちゃんは強くて」
アンディが、照れるように言いました。
この子は何のために生き延びて、何のために戦うのか?
自分は何のために戦うのか……?
サイードは尋ねます。
「強くなって、何がしたい?」

「僕、優しくなりたいんだ。でも弱っちいから、強くならないといけないの。サイードお兄ちゃんは、強いでしょ? 大きくて、強くて、勇気があるでしょ? だから羨ましいんだ。僕、弱くて怖がりだから。死んじゃうかもって、いつも怖くて……」
慎重に最後まで聞いて、サイードは考えました。
そして何かを決意したように答えたのです。
「死は誰にでも訪れる。いつかは分からない。強ければ打ち返せる訳でも、速ければ逃げられる訳でもない。死は容赦がない」
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