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『wizardryで物語る』 Appendix Story
彼らに纏わる話 025

鬼が出るか蛇が出るか。
精鋭達が息を殺しながら互いに秩序を形作っていたあの街は、もう遠く上の方に位置しています。
既に深層。
ここに辿り着けるのは、古くから冒険世界を支配してきた魔力全てを解放出来た者だけです。

「我らは何処へ向かっていると思う……?」
呟かれたゾフルの言葉は、あらゆる壁を反射して彷徨い、やがて静寂となって帰ってきました。
街です。
そこには無数の穴蔵と、長い通りと、奥まった施設が置き去りにされていました。
数え切れない傷跡を抱えた石壁は、少しでも目を離せば全く違う表情にも映り、見ているだけでうるさい。
それを叩きながら老人は言います。
「見ろ、こいつはまるで死だ!」
ボロボロと落ちていった石の欠片は、すぐさま通路の風に攫われました。

その時、ゾフルの表情を覗き見た者はいませんでした。
私達だけが知っています。
彼は笑っていました。

ここまでやって来た人々は一体どこへ行ってしまったのでしょう?
あれからどれくらい経ったのか、その先には何が待っているというのか、この階層に巣くう亡霊達はことごとく怯えていて何一つ語りません。
そんな中で響き渡るのは、世界を裂くようなTILTOWAITの炸裂音だけでした。
連鎖する融合と分裂が怒り狂ったように迷宮全体を揺らし、そして四体ものキメラが怒号と共に吐き出すブレスが辺り一面を火の海に飲み込みます。

その向こう側からゆっくり現れた影の先頭は、髪を振り払いながら言いました。
「行くぞ。狙っていた首も近い」
この空間を襲い続けた時間も、寒々とした空気も、その優雅な声をかき消す事は出来ませんでした。
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