戻る
『wizardryで物語る』 Appendix Story
彼らに纏わる話 029

急流渦巻く地下。
サリアンナはその静かにして逆らえぬ勢いで動く水を、じっと眺めていました。
このような暗々とした場所で、水流は一体何処を巡回しているというのか、しかし手に掬ってみるとそれは奇妙な程に澄んでいます。
既に、この小島のようなスペースでキャンプを開いて、三時間が経過していました。

「堂々巡りだな」
ゾフルは小島を中心に形成された渦に向かい、古い言語で呟きました。
ともすると、先程から一向に答えの出ない議論について言ったのかも知れませんが、顎を先で支え熟考するアイリーンは、端から耳を傾けていなかったようです。
サリアンナだけが、何故ゾフルがそのような言葉を知っているのかと疑問に思いました。

目の前にあるのは、まるで入水を導くかのような不自然な下り階段。
そしてその横に唐突に現れた、転送装置に酷似した輝く円盤。
アイリーンの優れた危機察知により真っ先に選択されたのはMALORでの離脱でしたが、それは何故か適いませんでした。
景色がぶれ、自己の存在座標が徐々に滑っていく感覚は確かだったものの、何度瞬きしたところで視界に変化が現れなかったのです。
詠唱したサリアンナも、皆に向けられた眼にふるふると首を振るしか出来ませんでした。

「私は嫌よ。何だか思い通りに動かされてるって感じがして、癪じゃない」
「だが行くしかなかろうて。流れの中心はあそこだ。人間は運命を変えようと躍起になり過ぎる。一度肩の力を抜いて身を任せてみ。気持ちが良いかも知れんぞ?」
「あんたは黙ってなさい」
カヤとオクサナの会話を脇に、サイードがひっそりとアイリーンに近付きました。
「……行きますか?」
「いや、MALORが使えなければ、情報を活かせない可能性が高い」
「力不足で」
彼は小さく頭を下げました。

アイリーンは黙って考えを続けながら、ふと「もし自然が真空を嫌うとすれば、心は無意味なものを嫌う」という言葉を思い出しました。
ヒトは何千年も昔から、骨の罅を踊った人影だと言ったり、星々の集合を獅子だ乙女だと言って、好き勝手に意味を作り出してきました。
だがそれは弱い者がした事だ。
と、彼女は目の前に並ぶ階段と円盤を睨み付けたのでした。
戻る