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『バズー!魔法世界を詠む』 これまでのあらすじ
『テオの日記』 - 003

2015/01/12 MON

久しぶりにロマールと会って、互いの近況を話しながらセラスの町を歩いた。
僕は暇さえあれば魔法図書館で読んでいる、上級召喚魔法の強さについて話し、ロマールは名誉のために五回も決闘をしたと得意げに語った。
こいつももう十九歳だというのに、変わらない奴だ。

二人でパリス大食堂に入り食事を取ろうとすると、ロマールが財布をすられた。
決闘なんかして粋がってても、これじゃあしょうがない。
頭を抱えながら犯人らしき女を追っていったら、暗い街角の地下酒場に行き着いた。
セラスで暮らして数ヶ月経つのに、こんな所があるなんて知らなかった。
健全な住人が寄り付かないような所謂裏の世界というやつで、客も怖い目付きをした男の人や、妖しい雰囲気の女の人ばかりだったから、僕は帰りたくて仕方なかった。

南国生まれの美人ミレーヌは、そこのカウンターにいた。
「待ってたわ」と笑い財布を出すミレーヌにロマールは激怒したけれど、いくら騎士と魔術師といっても、ここは僕らの領分でない世界だ。
マスターがぼそりと「ここじゃ大人しくしてな」と言っただけで、客達が色めきだって僕らを囲み、店の入り口を固めた。

だけどミレーヌは、用があるのは魔術師君の方よとニッコリし、僕が探索に出る時には自分を連れて行けと提案した。
「テオドールの探索には私が責任を持って同行する」とロマールは突っぱねたけど、どうせ旅をするなら美人がいた方がいいから、僕はコクコク頷いた。
「あのゴロツキはどうせ財宝目当てだ」なんて憤慨するロマールをなだめるのは苦労したものの、それはモテる人間の義務というやつだ。

次の日、ランダル師匠が「ダルネリア国のダールへ行き、神の眼と呼ばれる宝石を受け取ってきて欲しい」と船の旅券を渡してきた。
この天才テオドールもついに海外進出だ、と思って地図を見たら、めちゃ遠かった。
あの爺さんはいつも、頼む時の口調と指示の大変さが釣り合ってない!

破魔レベル4、魔力を吸い取るスティルを習得して素寒貧になり、僕は港まで行った。
すると桟橋にロマールが立っていて、「この広い世界のどこかで私と戦うために待っているドラゴンの事を考えていた」と、訳の分からない事を言い出した。
こっちが不思議そうな顔をしていると、「騎士の夢はドラゴンスレイヤーになる事に決まってる!」とまたしても子供っぽい事を海に向かって叫んだ。

どうやら彼は休暇中らしい。
きっと何の予定もない寂しい奴なんだと思ってダールへ行く事を教えたら、「あんな危険な町に一人で行くのか!」と付いてきてくれる事になった。
船から海を眺めつつ、僕は町外れでパル教の教会を見た事なんかを話した。
ラルファンではフェスター教が力を持ってるから、細々とやっているらしいのだ。
ダールに降りて、「土が肥えてるなあ」と僕が言ったら、ロマールは「やっぱり気になるんだな。農夫の血ってやつか」と笑っていた。

現在ダルネリアはデュエルファン王国の占領下に置かれている。
港から早速ダール一の雑貨屋を自称するベルメーダ雑貨店に行くと、店主は僕達に疑いの目を向けた。
すぐ頭に血が上るロマールは文句を言ったけど、どうやら理由があるらしい。
何と黒いローブを着た魔術師風の男が、既に神の眼を受け取ったという!

手がかりを探して町中を歩いた。
ダールの町は戦争の傷跡も新しく、人々の顔は疲れていた。
地の神レサを信仰するゼ・レサ教会には、この国の乱れは信仰を忘れたからだと嘆く人々がいて、デュエルファン王国による総督府はクーデターを警戒しピリピリしている。
城跡では傷付いた兵士達がうなだれ、復讐を口にしていた。
どうやら殺された王の弟ジャールが、反乱の用意をしているらしい。

町の隅にある小さな家で、魔法図書館の本でも読んだ、星読みのシーラに会えた。
シーラは僕達を「災厄を生み出す」と表現したけれど、「運命から逃げてはいけない」とも警告した。
ブロンド雑貨店では先程のベルメーダの親父の悪口が聞けた。
どうやら金さえ積まれれば何でもやる男らしい。
小麦を待つ僕達の乗ってきた船の横では、クロスチェーン号という柄の悪い水夫達の船もあったし、夜にならないと本当のダールは見られないという話もあり、ここが危ない町なのは確かみたいだった。

日が暮れかかり、宿屋で休む事になったのに、僕達には金がなかった。
僕はロマールが持っているだろうと期待して所持金18ゴルでここまで来たのだが、考えなしのロマールもお金を置いたまま勢いだけで船に乗ってしまったらしい。
だけど幸運な事に、ブランチ_INNの入り口に160ゴルが落ちていた。
世界の主役たる美少年には、こういう事がよく起こるものだ。

だけど一息入れて眠りにつこうとした時、ロマールが「やはりじっとしておれん!! 盗賊の類は夜に活動するものだ!」なんて言い始めたから参った。
結局僕達は、治安の悪い夜のダールへ繰り出すはめになった。

すると酒場のカウンターで意外な人物に会った。
色っぽく笑う、ミレーヌである。
ロマールが大声でスリ呼ばわりしたので焦っていたが、彼女は僕達の目的が赤くて綺麗な「神の眼」という宝石である事を言い当てた。
そしてそれの今の持ち主が「シャア・テリス教」の僧侶である事まで、教えてくれた。
それはベラニード族の宗教だ。

酔っ払いは「みんな死んじまった」と嘆いている。
「あんた達、本当の神に会いたくないかい?」と据えた目付きで歩く男もいる。
路頭に迷う人々の姿は、この町の現状を表している。

宿屋に戻ろうとすると、セダンテスいうひげ面の渋い男が「シャア・テリスと一戦交える気か?」と声を掛けてきた。
無頼の剣士を自称する彼は、酒場で僕らの話を聞いていたのだ。
暗躍するシャア・テリス教をダールから追い出すという自身の目的は、こちらの利害とも一致するはず、という彼の論は正直よく分からなかった。
でも生まれは貴族っぽいし、こっちはこの町を全然知らないので、僕はコクコク頷いた。

城跡の西にデンの市場というものがあって、そこにレジスタンスがいるらしい。
行ってみるとダールの兵士が突然話しかけてきた。
「星読みのシーラの所へ占いに来る総督を暗殺する計画があるようです」
セダンテスは表情を険しくした。
「総督が暗殺されたりすればクーデターが起こる。そうなれば、デュエルファンもサーセス帝国も黙ってはいまい」
この小国ダルネリアは、西に強大な武力を誇る騎士国デュエルファン、そして東には広大な領地を有する赤き帝国サーセスに挟まれているのだ。

セダンテスはこのままではクーデターが起こるのは時間の問題だと判断し、計画の阻止よりも、クーデターを先導している者を叩く必要があると言い出した。
それは王弟ジャール将軍の事かと思われたが、実は違った。
セダンテスは妙にはっきりと、彼は極秘にダルネリア解放交渉を行っていると言うのだ。
そして全てはシャア・テリス教の陰謀だと吐き捨てた。

夜も明けそうだった。
セダンテスの正体も気になったけど、それは次の夜まで待たなければならなかった。
拾った160ゴルも残り少ない。

次の日、月明かりの中で外へ出てみると、そこにセダンテスがいた。
彼はシャア・テリスの内偵を進めていたダルネ城の衛兵ガーランドを連れてきた。
セラスの魔術師テオドール、セラス騎士団のロマール、そして彼らをあわせた四人でデンの市場を張っていると、総督の馬車の到着と共に、暗殺集団が現れた!

アサシン達を引き連れた男は、何とあの盗賊の頭クロイゼルだった。
この期に及んで大義名分を吐き、自身を王弟ジャールだと主張していたが、そこで飛び出したセダンテスが「本物のジャールはここにいる」と宣言した事で場は騒然とした。
クロイゼルは舌打ちして部下に指示を出し、ダークネスを使って逃げた。
あいつって、本当にダークネスばっか。

ロマールはもちろん、セダンテスも剣技だけに頼る肉体派で、ガーランドも弓は持っているものの顔はごついし魔法なんか使えるはずもなかった。
しかも顔がごついガーランドは、薬草の使い方も下手で自分じゃ回復が出来なかった。
これだから顔がごつい人は嫌だ。
全く、回復も援護魔法も頼りは僕だけなんだ、このパーティは。

雑魚達を蹴散らし、証拠を掴んだ僕達は、その足で奴らの根城となってるダイン家へ。
敵を地下まで追い詰めると、そこは邪教組織に相応しい怪しげな場所だった。
サンタさんに似た教祖とアサシン達が「ここはお任せを」なんて台詞を吐くと、そこにいたクロイゼルはまたしてもダークネスで姿を消してしまった。
本当もうダークネス。

僕がチャームをくらって寝てたり、セダンテスがアイスボルトをくらって気絶してたり、色々あったけど、僕らは何とか邪教集団を壊滅させる事が出来た。
そして神の眼を手に入れると、ついでに高そうなパールドレスもせしめてやった。

数日して町が落ち着いた頃、僕達は再び船に乗ってダールを去った。
セダンテスの命により混乱した状況の収束が計られ、交渉も進んだらしい。
そのせいで彼はジャールという名を捨てる事になったが、その後悔はなさそうだった。
サーセス帝国がダルネリア解放を支援するための条件ならば、安いものだと。
「デュエルファンの天下も後四、五年というところだろう。奴らはダールの利権が惜しくて渋るだろうが、手は打ってある」と彼は策士らしく笑っていた。
そしてもし困った事があればどこへでも呼んでくれと、手を振った。

セラスへ帰った僕は早速、ランダル師匠に召喚レベル3のテンタクルを習った。
異界の触手を呼び出すおぞろましい攻撃呪文だ。
あれだけ大変な事をやったんだからもっと凄いご褒美が欲しかったけれど、師匠は年寄りで痩せこけて美しくもないから、贅沢は言わないでおく。
下級呪文を全て習得した事で、下級魔術師に昇格出来た事だし。

それから一年が過ぎる頃には、僕の天才的センスと、僕の友達であるという評判によって、テオドールとロマールはセラスの町で評判の若手魔術師と若手騎士だった。
GA3017年、セラスは希望に満ちていた。

僕も十八歳になっていた。
ある日、ランダル師匠が砂漠の町ヴァメルの近くにある遺跡調査に僕を抜擢した。
この世界には大災厄により崩壊した帝国の遺跡が、所々残されている。
セラスに来た頃に買った古代の地図は、帝国崩壊直後、恐らく大地の水没や山脈の隆起があったすぐ後の事を描いているのだけれど、そこにも魔術の塔が記されている。
ヴァメルにもそれがあった。
今回の目的地だ。

「にしても遠すぎるんだよ、もう!」
研究室を出て、学校を出て、町の隅に行って叫んでやった。
ランダル師匠って距離の感覚がないのかな?
ヴァメルは、船でネーファン王国の首都ネーリアへ行ってから、南へ南へ、ファームとシュールを通り、更に南へ行った世界の果てアリア砂漠にある。

この一年でセラスも少し変わった。
踊り狂うマスターがいる酒場がオープンし、金持ちだと評判のパル教の僧侶が町中で見られるようになった。
ミレーヌは相変わらず旅ガラスのようだったから、ロマールに出発する事を言いに行くと、また付いてきてくれる事になった。
仕事の方はいいのかな、こいつ。
そんなに僕の事が好きなのかな。

パル教を中心とするネーファン王国は、ラルファン王国のすぐ南だ。
つまり宗教都市ネーリアは、ダール程遠くはない。
ここは交易が盛んで、内陸で採れた農産物を船で輸出している。

だから豊かな都だと思っていたら、そうでもないらしい。
雑貨屋の品揃えは悪いし、宿の枕は固く、司祭以外の人は不満げな顔を隠さないでいる。
町では「この頃船が魔物に襲われる」「街道で魔物に襲われた者がいる」なんて噂と一緒に、「ロット様は若いのに立派な方だ」という話も聞いた。
そう、ここはあのロットとミマスがいる町だ。

ミマスは都市での生活に馴染めず、郊外の森で過ごしていた。
ロットだけにでも挨拶してヴァメルへ急ごうとしたけれど、何と話を聞いたロットが協力を申し出てくれた。
彼はミマスも呼んで、僕らの道中を守ると言ってくれた。

「……久しぶり」とだけ口を動かしたミマスは、やっぱり相変わらず。
そこで僕はおもむろにパールドレスを取り出したんだけど、彼女は装備出来なかった。
せっかく美しいものが見られると思ったのに!
結局、ショートボウも含めて彼らの装備のために全員で資金繰りをする事になった。
何なの、もう。

その日々の中で、またもミレーヌと出会った。
酒場に行くと、彼女に会う。
「付いてきたら駄目だぞ!」と余計な事を言うロマールに、彼女は「埃っぽい所は嫌いなの」と手をひらひら振った。
そしてヴァメルのスルタンが、フルド族への恐怖から血迷って妙な連中と取引してる、という噂を教えてくれた。
どうして彼女は、僕らが行く場所を知っているのだろう?

トゥーインで幽霊が出た、なんて旅の噂話に耳を傾けつつ、ファーム村に着いた。
ここは国境の緩衝地帯のような所で、魔法図書館でも読んだ古の地だ。
村長が「村の者は皆帝国人の子孫で、皇帝をお迎えするためにずっとここで暮らしている」と言うように、この地はあの大災厄で唯一被害を受けなかった場所なのだ。
とはいえ、今ではそんな事を信じているのは村長だけらしい。
住人は肥沃な土地での暮らしやすさに惹かれ、ここで暮らしているだけのようだ。

ほんの少しの宿と食事を取って、更に南へ。
野宿では焚き火を囲んで、「森の中には悪魔が住んでいるという伝説がある」なんて話について語り合った。
もうすぐ到着するイシュカール国の都市シュールの近くには、エルフが住むという森クレ・ア・クォーラスがある。
僕も何度か遭遇した、世界で暗躍するベラニード族……。
かつて五百年前に彼らと起こった戦争の最中、エルフ族は傍観していたと伝わっている。
黒エルフとも呼ばれるベラニード族と、エルフ族との関係は何なのだろう?
今人々は、滅多に姿を見せないエルフ族をも警戒している。

シュールは酷く荒れた土地で、ろくなものが採れないだろうと思った。
サーベルタイガーまでいる荒野を走り抜けて町に入ると、いきなり「ここじゃあんまり馴れ馴れしくしない事だ」と釘を刺された。
僕達を見ると人々は皆嫌な顔をして、「余所者は嫌いだ」「セラスの魔術師が何の用なの!?」と突っぱねた。

だが「誰だって好きこのんでこんな荒れ地に住んでる訳じゃない」と語る彼らも、辛い日々を送っているようだった。
老人は語った。
「わしらは地上に残ったベラニードと人間のハーフだったが、どちらからも忘れ去られて遂にはこの有様だ」
テスを崇める教会の地下に、テリスを崇める別の祭壇があったりするのも、きっとその辺の事情と関係しているのだ。
そう、あの「シャア・テリス教」だ。
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