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『バズー!魔法世界を詠む』 これまでのあらすじ
『テオの日記』 - 004

2015/01/16 FRI

天才魔術師の僕はもっと魔法を覚えたいのに、パーティが貧乏でそれどころじゃない。
巻物を使い捨てにすれば、脳まで筋肉で出来てるようなロマールでも魔法を使えるんだけど、そんな贅沢な戦法は夢のまた夢だ。

このシュールの町から南へ出れば、ヴァメルへ着くまでは厳しい道のりが待っている。
だから排他的な住人達に居心地の悪さを感じながらも、十分に宿を取った。
僕はランプの明かりを見つめながら、「生き返りの秘薬はグリフォンの心臓から作られる」という魔術学校の先輩から聞いた話を思い出していた。
僕の生まれが農夫じゃなく薬草師や、せめて民間伝承や神話に接する修道士なんかだったら、もう少し探索に必要な知識も得られていたのかも知れない。
そういえばラルファス村の母さんはどうしているだろう?
今日もあの村の土を耕していたのかな?

大陸を更に南下して大きな川を越え、僕達はついにアリア砂漠に入った。
パラスパイダーやオーク、サーベルタイガーがうようよしているこの過酷な世界にも、砂の民と呼ばれる人間が暮らしているのが驚きだった。
でもこんな強い陽射し、乾燥した空気じゃあ、美しさなんて保てそうにない。
干からびて男か女かも分からなくなったその砂の民にヴァメルの場所を聞き、僕達は歩く速度を速めた。

「あの爺!」
そんな風に、ランダル師匠への恨みを込めて叫ぶのも何回目だろう。
一つはサモニングが敵に全然通用しない事。
ロットのチルがよく効いているのを横目に見ながら、僕だって師匠に気を遣って召喚魔法を使い続けてるってのに。

そしてもう一つは、今こうしてアリア砂漠を彷徨い、全員ボロボロになっている事だ。
師匠は子供のお使いみたいに軽く頼んだくせに、これ程厄介な場所である事はおろか、ヴァメルの正確な位置も教えてくれなかった!
ここでは地図も意味を成さない。
今や帰り道すら見失っていた。

全員死の可能性を感じながらも、それについては口にしなかった。
この間道を聞いた砂の民の言葉もひどく曖昧で、あのロットですらもそれに苛立ちを覚えているように見えた。
ミマスの表情は変わらないものの、顔色だけが悪くなってる。
ロマールはまだギャーギャー言う元気があるみたいだけれど。
今じゃそれすらもありがたく思える。

別の砂の民にも出会えたが、僕達は疑心暗鬼だった。
シュールの町で受けた扱いも、影響していたのかも知れない。
しかし彼らの言葉には意味があったのだ。
外から見ても何の気配も感じられないような巨大な岩場で、僕らはそれを知った。
ヴァメルの町は、その中にあった。

太古の遺跡の上に建てられた都市、ヴァメル。
張り巡らされた地下水道のおかげで、この砂漠でも水に不自由せずに人が暮らせる町だ。
スルタンメラドという宝好きの王が治めていて、町の中央には彼がコレクションした歴史的価値のある品や美術品が見物出来る博物館がある。
不死王ジャラを描いたとされる絵画にはミマスですらも興味を寄せ、ロマールに至っては「これは素晴らしい」なんて分かった風な事を言って感嘆していた。

この南の果ての文化は、北国であるラルファンとは全く違う。
例えばシラーを信仰する寺院には祭壇すらなく、中央に黒いキューブがあるだけなのだ。
人の名前も聞いた事がないような響きが多い。

町を歩く中で、遊牧民フルド族の話も耳にした。
ヴァメルの人々がフルド族に怯えているという話は、ミレーヌも言っていた。
宿屋で僕らが休んでいる時に、この国の大臣であるメルパシャという老人が話しかけてきたのも、そのためだった。

セラスの天才魔術師テオドールとそのお供ロマールの噂を風に聞いたスルタン王が、頼み事をしたいのだという。
地下水道を通り、この町の地下にある遺跡から「開封の印」と呼ばれるお宝を手に入れて欲しいのだと、大臣は言った。
「報酬は十分用意してあります」そんな言葉に僕もニッコリしたのだけれど、真面目くさったロットが余計な口を出した。
「私共は崇高な探索の半ばにある者。下世話な宝探しではありません」

しかし事情はそこまで単純でないようだった。
メルパシャは、このままではこの国はフルド族に攻め落とされる事、そして開封の印さえあればそれと交換に援助してくれる国がある事を内密に告げたのだ。
何だかきな臭い話だなと僕らは顔を見合わせた。
するとミマスが、「……引き受けて、テオドール。戦いはたくさんの孤児や奴隷を作る」と最初に口を開いた。
まあ彼女は結構美しいから、僕はそれに乗る事にした。
報酬に興味がない訳でもないし。

夜、地下水道で落ち合う事を約束して大臣とは別れた。
それから日が暮れるまでの時間を活用しようと情報収集をしたら、変な話をよく聞いた。
地下から物凄い悲鳴が聞こえるらしいのだ。
試しに地下水道を覗いてみるとそこは不気味で、ロマールは怖くなったのか「誇り高い騎士の前に幽霊なんか出る訳がない。安心してくれ」などとよく分からない事を口走っていた。
それを聞いたロットやミマスが無言でいるのを見ると、どうやら彼らもロマールの扱いには慣れてきたようだった。

潤沢に思われた井戸水も、町の端で涸れた箇所が見付かった。
ミマスは「これじゃあ、全部の井戸が枯れる」と怪訝な顔をしていた。
きっと地下で何かが起こっている。

砂漠で苦労した分、お金には余裕が出来ていた。
そこで僕らは、パル教の司祭であるロットに、未来予言呪文である探査レベル2のデミネーションを習得してもらった。
「地の底深く封じられし物あり。屍となりしも土に還るを知らぬ亡者なり」
……今回も面倒な事になりそうだった。

という事で、ミマスにも魔法を覚えてもらう事になった。
彼女は元々魅了魔法をいくつか覚えていたものの、攻撃系が一つもなかった。
そこで精神を拘束して敵にダメージを与える、魅了レベル4のイドバインドの巻物を買ったのだが、何故か彼女は習得出来なかった。

大枚はたいたのに!
そんな美しくない言葉を思わず叫びそうになったのを飲み込んで、仕方なく魅了レベル3のフィブルマインドを買った。
これは敵の知能を下げる補助魔法だ。
この僕が新しい魔法を我慢しているというのに、贅沢な女の人だ。
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