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『バズー!魔法世界を詠む』 これまでのあらすじ
『テオの日記』 - 007

2015/02/04 WED

ウル人への差別が酷いのは、僕達がまだ彼らを理解していないから、というのが大きな原因なのだと思う。
例えば年齢の数え方も人間とは違うらしくて、僕はバイセンの年がどれくらいなのか、聞いてもいまいち分からなかった。

ただ、ここまで彼への視線が厳しいのは、人の心にも問題があるらしかった。
ネーファンの人間の中には、僕を見ても「おい魔術師、何かやってみせろ。面白かったら、ゴルを恵んでやってもいいぞ」なんて無礼な口を利く奴がいる。
本当、愚かな者達は無駄な優越感に縋りたがる。
僕なんて生まれてこの方、差別的意識を持った事がない。
この世にはまず最も美しいテオドールが一人いて、その下には大きな差などないのだ。

僕らがたった数日でトゥーインに引っ返してきたためロットはびっくりしていたけれど、事情を話すとすぐに協力を申し出てくれた。
彼が用意した馬車に乗り、「水の女神パルは、創造神フェスターによって作られた四つの神のお一人なのです」なんて彼の退屈な話を聞きながら、僕らは西へ向かった。

ロモスがある北部辺境地帯は岩場ばかりで、農地に使えないどころか、馬車移動も難しい。
僕は歩きつつ地図を見て、ここがイアルティスの西の果てである事に感慨を覚えた。
けど、果たして本当にそう言い切れるんだろうか?
僕が今見ているのは、「古代地図」だ。
今世界に流通しているのは、何百年も前に作られたこの地図のみであり、現代に生きる僕らは世界を正確に測量する術がないのである。
古代に栄えた帝国文明というのは、どんなに凄い技術力を持っていたのだろう?

バイセンの攻撃は素早く、鋭い。
弓矢を構えサーベルタイガーを駆る辺境部族や、テンタクルを使いこなすボブオークにも、一気に接近して急所を突いてしまう。
武具を全く使わずとも、彼の肉体は剣よりも鋭く、鎧よりも頑丈らしい。

ロモス村では盗賊達が暴れ回っており、住民達は住居の奥で震え、逃げ遅れた者達が道を引きずられていた。
僕達が急いで助けに入っていると、一人の男性から「奴らは港の船からやってきた」という情報を得られた。
奴隷船だ!
それを聞いて向かった先で、僕は見覚えのある物を目にした。
あのダルネリアのダールで見た、クロスチェーン号だ。

こちらの動きは奇襲の形となり、手薄な警備をあっという間に蹴散らせた。
「助けに来た」
檻に捕まえられていた多くのウル人に近寄り、バイセンが言う。
疲弊しきっていたウル人達はその声でこちらに気付き、バイセンが生きていた事や、自分達が助かりそうな事を喜んでいた。
「奴らは俺達を穴掘りに使うつもりだったらしい。ラモスの坑道で死ぬまで働かせると言っていた」

ひとまず町にいる残党を掃除していると、村長の家で盗賊をボコボコにのしている大男に出くわした。
「お前達、何者だ!」
その問いに僕が「奴隷船を追ってきた者です」を名乗る横で、ロマールは「私はセラス騎士だ」と胸を張っていた。
だが、大男は不思議そうに首を傾げた。
「きし??? そんなもの知らない」
「誇り高い騎士団を知らないだと!?」
ぶつぶつ文句を言うロマールを尻目に、大男は突然「そうだ村が危ない!」と駆け出そうとした。
しかし入り口近くにいたバイセンを見た途端、今度は「お、おおかみ! 化け物!」と驚いてひっくり返ってしまった。

「私は化け物ではありません」
「おおかみ人間だ!」
穏やかに言うバイセンの方が、この大男よりもずっと文化人に見えるのが不思議だ。
男は、僕がセラスの魔術師であると言えば、「おああっ! まほーつかいー!」と仰天し、「俺にのろいをかけようとしても、駄目だ!」と震え始める始末だった。

目の前のこういう展開を全く無視して村長を回復し始めるロットって、凄い。
てきぱきと手当を終えたロットは、大男に向き直って言った。
「私は祈祷師だ。お前は魔術師と一緒に行かなければいけない」
すると村長も「祈祷師の言う事はいつでも正しい」と彼に頷きかけ、大男は急に改まった顔になって姿勢を正した。
「俺は、ラモスのベリアル。祈祷師の言葉に従う」

さすが、最果てとはいえ教会の国ネーファンだ。
それにロットは僧侶として辺境へ布教に行く機会も多いために、蛮族の扱いには慣れているらしかった。
彼はボロボロになっているウル人達や、怪我をした町の人々を治療するため、自分はロモスへ残ると僕達に告げた。

そして僕達は町を出て、盗賊団を追いラモスへ……こらこらこらこら!
僕はハッとした。
ロットには手に入ったチェインメイルを渡したばかりだったし、隣にいるベリアルの装備は蛮族特有の貧乏ったらしいものだし、何よりこのパーティって僕以外は脳まで筋肉みたいなむさ苦しい野郎しかいないじゃないか!
こんなのテオドールには相応しくない!と、町へ戻ろうとしたのだけれど、ベリアルが「ラモスへ行く!」と言って聞いてくれなかった。

ラモスの町でも敵は動いていて、村長が人質に取られていた。
だけど僕らが扉を蹴破ると、ベリアルとバイセンが素早く動いて盗賊を叩きのめしてしまい、事件はあっさりと解決した。
むしろ蛮族と獣人が突然飛びかかってきて、村長の爺さんは腰を抜かしたようだった。
「奴らは採掘所が洞窟に繋がったと知って、喜んでいるようじゃった。わざわざ奴隷を連れてくる必要もないと言っていた」
どうやら敵の穴掘りの目的は、その奥の洞窟を見付ける事だったらしい。

早速採掘所へ行くと、そこは深く、そして細かく枝分かれしていた。
松明に火をつけて歩きながら、僕はロマールに「何で村長の家で攻撃に加わらなかったの?」と聞いてみた。
彼の性格なら真っ先に飛びかかっていくものだと思っていたからだ。
すると、「不意打ちなんて誇り高い騎士のやる事じゃあない」なんて言葉が返ってきて、僕はやっぱりこいつは馬鹿騎士一直線だなと再認識した。

ここは暗いし、狭いし、汚いし、臭い……。
はっきり言って、僕みたいな存在がいてはいけない場所だ!
しかもどこまで続いているのか見当も付かないくらい長いし、仲間達は美しくないし、ロマールとベリアルはぎゃーぎゃーうるさくて敵わない。
唯一の救いはバイセンが凄く落ち着いた常識人って事だった。
彼はロマールとベリアルが言い争いなんかを始めると、とても丁寧に二人を説き伏せてしまうのだ。
これにはウル人の見方が変わったというか、人間として恥ずかしいというか、どう言うべきか困った。

「ちょっと待った、テオドール!」
あれからどれくらい歩いただろう?
ある時、突然ロマールに呼び止められて、僕達は足を止めたのだった。
「どうしたんだ、ロマール?」
「見ろ、こんな所に1ゴル落ちてたぞ。ラッキー!」
……はあ。

トレヴィの秘薬やメフェの石版と呼ばれるものを拾っても、僕は探査魔法なんて地味な魔法は覚えていないから、効果が全く分からない。
このパーティだと攻撃魔法も回復魔法も唱えなきゃならないから疲れるし、この道中がいつ終わるかも分からなくて、僕は心底苛々していた。
と、その時だった。

「待て、テオドール。今君の足下で何か光ったぞ」
「え、どこ?」
「これだ! おお、今度は2ゴルも! ラッキー!」
……僕、キレそうだ。

やがて坑道は終わり、洞窟へ通じる穴を抜けた。
そこには魔物が溢れかえっていて、ラモスの人間達が「採掘所が洞窟に通じてから、魔物を多く見るようになった」という話を思い出した。
更に奥へ進むと、ザアザアという水音が耳に入ってきた。

こんな地下に巨大な空間があり、そこに大きな川が流れていたのだから驚きだ。
しかし僕達が本当に息を呑んだのは、このような場所に長大な吊り橋が架けられていたのを発見したからだった。
落ちたら一巻の終わり。
しかもいつ作られたのかも分からないような橋の上で、ハルピュイアなんかを振り切りながら、全力で走った。

するとその先に、遂に魔術の塔が姿を現した。
何とここでは、塔がその形を全く崩さずに現存していたのである。
あの盗賊団の正確な狙いはまだ分からないけれど、彼らがこれを見て興奮したのは間違いないだろうなと僕は思った。

上るとそこには、ベラニード族の待ち伏せがあった。
彼らはもうベラニード族としての姿を隠そうともせずに、僕達に襲いかかってきたのだ。
ファイアスフィアで炎の嵐を浴びせ、ムーンライトで接近する相手を撃ち抜くその戦術は、凄まじい魔力の高さを感じさせた。
おまけにこっちは、僕以外魔法に精通していない者ばかりだ。

ロットがいないため、僕は援護に徹するしかない。
世界の主役たる美少年からすれば不満があったけれど、走って殴るしか能がないこのお供達を上手に扱うには、これしかないだろう。
主に僕のリカヴァのおかげで、敵は退けられた。

「ド、ドラゴンだ!」
塔の屋上部に出た時、ベリアルが指を差して言った。
僕達はその先を見て、目を見開いた。
そのドラゴンが口を開き、言葉を発したからだ。
「んっ、何だまたか……。今日は忙しい日だな」

「私はセラスの騎士、ロマール。偉大なトカゲに決闘を申し込む!」
間髪入れずに一歩前へ出たロマールに、バイセンが静かに言う。
「……貴方には敵いませんよ」
こういうツッコミ役がいれば、こっちの仕事も少しは減るってもんだ。
「止めないでくれ! 騎士にとってドラゴンと戦う以上の名誉はない」
だけどここまでロマールが熱くなってしまうと、僕だって口を出さざるを得ない。
この無鉄砲にこんな所で死なれると、はっきり言って困るから。

「私はこの塔の番人ではあるが、ドラゴンではない。よく見てみろ。腕の代わりに翼がある。つまり翼竜……ワイバーンという事さ」
わーわー騒がしい僕らに対し、ワイバーンと名乗った生物はとても冷静だった。
そしてもう一人冷静なのが、バイセンだ。
人間達は一体何をやっているのか……。

「私共より先に、誰か来ませんでしたか? 別の臭いがするのです」
「先程ね」
「どこに行ったか教えて頂けませんか」
「さてね……。まず、口の利き方がなっていなかった。丁度、腹も減っていた」

両者のやりとりをここまで聞いて、僕とロマールとベリアルは顔を見合わせた。
「まさか、食べたとか……?」
ワイバーンはその問いには答えなかった。
しかし、次に驚くべき言葉を放った。
「BAZOEの欠片をよこせと言っていたな」

またしてもBAZOE!
バズー!とは一体何なのか? 欠片とはどういう事か?
問い詰めても、ワイバーンの反応は決して読み取れない。
彼は淡々と言葉だけを紡いだ。
「ここには、バズー!の欠片などない。どうしても知りたければ、ザインへ行くがいい。裁きの塔では、全てが明らかになる」

「この塔は一体何なのですか?」バイセンが聞くと、彼はこう答えた。
「ここは魔術の塔の一つ、召喚の塔だ。大災厄で埋もれてしまってから、訪れる者もいない……」
それから「そうだ、預かり物がある」と、その長い首を僕に向けた。

「リカルドという魔道士から、魔道士の指輪の持ち主に渡してくれと頼まれていた巻物がある」
「それは私の父です!」
「やはりな……。奴とは話が弾んで、三日も語り明かしたぞ。テオドール! 何事も自分の信じた通りにする事だ。……約束も果たしたし、久しぶりに外に行くよ」

彼はブレースという魔法の巻物を僕に渡し、飛び去っていった。
ここは召喚の塔。
きっとこれは、失われた召喚レベル8の魔法に違いなかった。
そして、父の遺品……。
僕は自分で召喚魔法を選び取ったつもりだったけれど、もしかするとそれは、僕に流れる偉大なリカルドの血がそうさせたのかも知れなかった。

巨大で、複雑な想いを胸に、僕達はまた陽の光の下に戻ってきた。
何だかこの採掘所に入る前に比べて、全員筋骨隆々になっている気がする。
顔も煤と埃まみれだし、こんな事で僕の美しさが損なわれたら、世界が許してくれないだろうに!
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