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『wizardryで物語る』 Appendix Story
彼らに纏わる話 018

この街の交差点には、常に殺気が渦巻いています。
例え人気がなくとも、そこへ行くとすぐさま血や争いの臭いが漂ってくるでしょう。
迷宮の深くに栄える街……そう、ここには一見清潔な家屋が並び、整然とした道が走り、施設にも質の高い礼節が備えられていたのです。

しかし普段、住人の姿は殆ど見かけません。
彼らの多くは活発に活動する冒険者であり、常に獲物を狙う略奪者であり、難解な研究や修行に没頭する思想家であるからです。
実力者とは、決まって多くの言葉を持ちません。
彼らが相まみえた時は、そこに血だまりだけが残り、そしてそれも翌日には綺麗さっぱりと清掃されて街は沈黙を守り続けるのです。

が、近頃そんな静寂がかき乱されています。
ある時ふらりとやってきたパーティが、飢えたヘリオンを連れてうろついているというのです。
彼らはヘリオンに臭いを辿らせ、それが吠えた扉という扉を開き、武具や酒を強奪します。
その悪名と噂は嵐のように広がり、彼らの姿はこうして伝えられているみたいです。

長く白い髪の夜叉姫は、奪い取った美しい刀や転送の巻物という値打ち物を眺めて口の端を吊り上げ、風呂上がりにはその身体を衝撃を散らす魔法のマントで包んでいる。
将軍と名乗る筋肉老人は、「貴様等、戦闘訓練だ」などと叫び歩きながらニコニコと両手の武器を振るっている。
口数の少ない陰鬱ノッポは、ヘリオンと共に住人達の首を刎ねて回り、しかも方々で罠を使った爆破を続けている。
一見愛想の良い下劣美少女は、ペラペラとグロテスクな事を喋りつつ、妙な取り巻きを集めている。
酒浸りの年増女は、酒が切れると誰よりも恐ろしい形相になって、アルコールの匂いを決して見失わずに何処何処までも追いかけてくる。
そして目の据わった変態娘は、あらゆる魔法を撃ちまくって、それを食らった生物や建物の残骸を観察しながら事細かに何かを記録している。

連中は、悪。
友好的に接しようとも、決して話が通じない極悪人達だ。
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