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『wizardryで物語る』 Appendix Story
彼らに纏わる話 019

「どうしてこんな事になっちゃったんだろ……」
アンディ・タイナーは迷宮の隅で涙を拭いながら、思い起こしました。
彼は今日も、魔法学校の同級生にからかわれ、その金色の髪を引っ張られ、小さな身体を足蹴にされていました。
いつだってそうなのです。
アンディは勉強が出来る方でもなかったし、大人しいばかりで、からかわれる一方でした。

けれど彼は、やり返そうだなんて決して思いませんでした。
それは農奴でありながら必死に働いて学校へ行かせてくれる両親が、「優しい人になりなさい」と教えてくれたからで、アンディ自身も優しい人々を尊敬していたからです。
彼は、優しくなりたかったのです。
しかし彼には友達がいなかったし、両親も人に使われる人生で忙しく、相手をしてくれる人といえば隣人である盲目のレギーナ婆さんくらいでした。
アンディは度々その家に預けられましたが、むしろ彼がよくレギーナの手伝いをしてやっていたとも言えるでしょう。
けれど、それくらいでした。

クラスメイトのモーリーンは、憧れの女の子でした。
美しく活発な彼女は、時々アンディにも優しくしてくれるのです。
少なくとも、アンディにはそう思えました。
今日、モーリーンがまたクラスの男子達と喧嘩をして、宝物を取り上げられてしまったらしい、と聞かされたアンディは、いてもたってもいられなくなって、まともに話した事もない彼女のためにいじめっ子達が待つ所へ向かっていきました。

あれはテッドの迷宮の中に捨てっちまったよ。
そう言った連中に囃し立てられ、背中を蹴られ、石を投げられ、何とアンディはこの出られない迷宮の中へ足を踏み入れてしまったのです。
それから今に到るまで、入り口で人や魔物が凄惨なやりとりをするのを、震えながら見つめていました。

「どうしてみんな、こんな意地悪をするんだろ……」
再び流れ落ちた涙を、影から来た綺麗な髪の女の人は見逃しませんでした。
「必要だからだ。いい加減に悟れ」
そして縮こまる子に言い放ちます。
「ヒトは劣ったものを見るとそれを腐す。そうすれば自分が真っ当で優秀な者に思えるからだ。チビがいればチビと言う。なのにお前は偉そうに、何故そんな事をする必要があるのか?などと言っている気でいる。違う。お前はただ、そうして欲しくないと願っているだけだ」
アンディは声を漏らさずに、ぽろぽろと泣きました。
それから必死に縋り付くように、一言だけ言ったのです。
「お父さんとお母さんは、人に優しくするんだよって、言いました……」
「しかしお前は優しくない。何故だ? お前はここで泣きじゃくる間、奪われていく者達を見たはずだ。それに何をしてやった? 同情をしただけだろう。しかも今、何故誰も自分に優しくしてくれないのかと心の中で非難している。お前は優しくない。弱いだけだ。……強い者が自己を示すのが優しさなのだ」
「僕、どうしたら……」
「私に付いてこい。そして優しくなれるように努めろ」
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