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『wizardryで物語る』 Appendix Story
彼らに纏わる話 027

「し、死んでる……」
濛々とした煙が収まると、髪がボッサボサになったサリアンナが言いました。
罠を作動させた当の本人が、大の字に突っ伏して動かなくなっていたのです。
アイリーンが額を細い指で抱え息を吐いたのを合図に、パーティの面々は動き出しましたが、サリアンナはたじたじを絵に描いたようなポーズを取ってもう一度言っていました。
「し、死んでる……」
「ちょっとサリィ、それもういいから、運ぶの手伝って」

彼女が最近、人間達の本を読んではおかしな言葉遣いをするのを、カヤは分かっています。
そういえば、つい先程もサイードの横に寄っていって、「あんたもなかなかやるようになったわね」としたり顔で言い放っていました。
また何かよく分からない事にはまっているんだなとカヤは放っておいてますが、ふと彼女がサイードにそんな口を利くのが珍しいような気もしたみたいです。

墓地といえばいいのか、寺院といえばいいのか。
とにかく死人がよく出入りする街の一角で目を覚ましたサイードは、近くに何者かの気配を感じてすぐそちらへ目を向けました。
するとそれは彼がよく知る死に神というやつ、ではなくてサリアンナでした。
「……何だ?」

膝を抱えながらじっと座っていた彼女は、こくりこくりとうたた寝をしていたようでした。
が、声に気が付いてすっくと立ち上がると、腕を組んで大袈裟に首を振りながら、心の底から嘆息するようにこう言ったのです。
「あんた、背中が煤けてるわ……」
ぽかんとするサイードを尻目に、満足そうにニヤリとした彼女は、すたすた宿に戻っていきました。
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