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『ポンコツロマン大活劇バンピートロットを詠む』 これまでのあらすじ

『キニス・プルウィア』 - 004

今向かっているハッピーガーランドがこの国で最も発展している都市だと聞いても、キニスにはいまいちピンと来なかった。
彼はネフロネフロに居てすら、人や機械や街そのものが動かす巨大な日々の中でじっと立つのに必死だったのだ。
もっと大きなもの、もっと速いもの、もっと便利なものなど、容易には想像出来なかった。

しかし、ウズラ山トンネルが通行出来なくなって、思いの外呆気なく蒸気機関車が止まってしまったというのは、彼にはどこかおかしかった。
あんなに凄いものが静かに立ち往生していたり、聞けば何でも教えてくれるような大人達が、事故の原因を知ろうとしてあたふたしていたからだろうか。
いや、彼は単にコニーの運命に自分が参加出来た事を、嬉しがっていたのかも知れない。

砂漠の朝は青い。
まだ旅の道連れ達は皆寝息を立てている。
キニスはオアシスに映る空を見つめていた。
静かだった。

昨夜、コニーとここで泳いで、色々な話をした。
彼女の事もいくつか聞いたが、記憶に流れるのは細かな言葉よりも一曲の歌だった。
人違いで攫われた砂漠の盗賊団のアジトでコニーが歌った曲は、切ない感情が夜に染みていくような音色だった。
友人について口を開く時、よく彼女はそんな声になる。
そんな気がした。

楽団のリーダーだったダンディリオン、その弟チコリ、外国へ行ってしまったマーシュ……。
当然キニスには誰一人として分からず、彼女の事をいつか理解出来る日が来るのだろうかと寂しさを感じていた。
すると、デザートホーネット団と名乗る者達が突然、キニスをマーシュと呼んで捕まえようとしたのだった。
とんだ騒動に巻き込まれ、命の危険すら感じたが、やはりキニスはどこかで嬉しいような気持ちも持っていた。
ある時コニーが気に掛けて触れてくれたおかげで、数少ない自分の持ち物であったこのペンダントに、ほんの少しの暖かみを感じ始めたように。
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