戻る
『ポンコツロマン大活劇バンピートロットを詠む』 これまでのあらすじ

『キニス・プルウィア』 - 006

都会の夜には音が溢れている。
リバーサイドホテルのレストランは川のせせらぎを売りにしていたが、こうして混じり合う町の忙しない音というのも、今のキニスにとっては楽しいものだった。
何せ、セイボリーとの二人きりの食事である。
恐らく彼女からすると、楽団の新米がどんな考えなのか知りたいという目的もあったろうが、それでも少年には舞い上がる様な体験だった。

楽団員達の印象から、昼間訪ねたダンディリオンについてまで、話は及んだ。
都会の喧噪から離れたホトトドス森の中にある、立派な木造家屋。
その楽器工房で、ダンディリオンはバジルのベースを修理しながら、色々な事を教えてくれた。
落ち着いた声に、暖かな口振り。
それを聞いているだけでは、彼にハッピーガーランドを避け、バイオリン演奏を止めてしまったという哀しい過去が秘められているとは思えなかった。

帰りのビークルでも、バジルが心配を口にした。
いつもはコロコロと表情を変えながら元気に話す彼もその時は寂しそうで、それは手紙と楽譜を受け取った際のコニーの笑顔についても言えた。
大学の音楽科で聞けたのは、楽器職人として十分に成功している彼を、尚演奏家として惜しむ声ばかりだ。

翌朝、楽団は港町スームスームへと発つ事になった。
アーバンスクエア新聞のベッティ先輩に、ネフロネフロでの騒動をうっかり喋ってしまった事で、朝刊一面に「巨大殺し屋」なんて異名が大きく載ってしまったのを、助手席のコニーが笑う。
だが病院でセントジョーンズ郷から聞いたマーシュという少年については、彼女もあまり話したがらなかった。
五年前に海外留学へ行って先頃帰ってくる予定だったマーシュは、未だ戻らない。
息子の心配をする郷曰く、キニスが友人にもらったと朧気に記憶していたペンダントは、彼の持っていたものとよく似ているらしい。
戻る