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『ポンコツロマン大活劇バンピートロットを詠む』 これまでのあらすじ

『キニス・プルウィア』 - 012

ハッピーガーランドを北に抜けると、ホトトギスの森がある。
ここはよく細かい雨が降り、足場も悪い。
今は後ろに乗せているマーシュの容態も考えて、単なる移動にも度々休憩を挟まなければならなかった。

マーシュの命を狙う組織がある、とは彼の父であるセントジョーンズ郷の言だ。
物騒な話を最初は怪訝に思ったものの、キニス自身も乗っていたジュニパーベリー号の沈没事故や、ウミネコ海岸での襲撃と、己もまたその危険のただ中にいた事にはたと気が付くのだった。

しかし、その時に頭に浮かんだ印象を、キニスは何だか気に入らなかった。
あの海岸から始まった今の生活には、本当に色々な事があった。
その中で共通していたのは「飯を食わなきゃいけない」という事くらいで、そうして必死に生きてきた自分の人生を、おかしな組織との対決や逃亡というテーマで言い表されるのは堪らなかったのである。
出会いや別れ、浮かんだ感情や触れてきた感情、その膨大な集積は簡単に言葉に出来るものではないはずだ。

それは丁度、マーシュが噂で聞いていた少年のようには思えなかったのと似ている。
「息子には良い薬になりました」と父親ですら言っていたけれど、キニスの知るマーシュは友人の一人であり、命を落としかけてまでそんな言葉を浴びせられるような者ではない。
ビークルバトルトーナメントでの活躍を見込まれて彼の移送を頼まれたキニスは、救急運搬パーツの中で寝息を立てるマーシュを見ながら、自分達の生活を脅かす組織というものがあるのなら、そんな連中は許せないなと思った。

向かう先のゴールドーン村は、とても静かな土地だった。
かつては貴金属の採掘で賑わったというが、今では人が減って子供もおらず、たった一つだけある学校も使われなくなって久しい。
その学校はセントジョーンズ郷が建てたものらしく、そこでマーシュを匿う事になっている。
キニスは以前、その近くにある老夫婦が経営する雑貨屋に、宿を借りた事があった。

思えばキニスも、これまで街でばかり暮らしてきたのだ。
それを実感した瞬間の事、今いる場所の近くにハッピーガーランドを見下ろす高台があり、そこから見た巨大な景色が忘れられないでいた。
その中では人はあまりに小さく、まともに見えやしなかった。
だがスームスームの闘技場で偶然、ジュニパーベリー号再建の為に働く乗組員ミゲールと、その愛機であり、かつてキニスとマーシュがビークルの扱いを教えてもらった際に搭乗したネプトゥヌスと再会したように、街ではそんな人生の衝突が繰り返されているに違いない。

高台には、チコリの墓が建てられていた。
ハッピーガーランドの墓地とは離れて、一つだけポツンとそこにある。
その理由を、キニスはまだ知らない。
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