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『wizardryで物語る』 Appendix Story
彼らに纏わる話 020

監獄とは静かなものである。
設備が良いのなら、尚一層。
そんな事も、アンディ少年はここへ来てから知りました。
近頃初めて知る事ばかりです。

「お前は父や母を好きと言う。だが農奴である両親を、誇ってはいない。いつもどこか後ろめたい気でいる」
アイリーンお姉さんは、いつだって厳しいです。
けれど正しい事を言います。
「アンディ。お前が両親より優れているものなど何一つない。少なくとも彼らはお前を守り、お前はただ怯えているだけだ」
美しい髪を揺らし、鋭くこんな事を言うアイリーンに、アンディは怖れを超えた畏怖を抱くばかりです。

「好意を持っていた娘のために、この迷宮に踏み込んだと言ったな? 教えてやる。その娘も今頃お前の馬鹿さ加減を楽しみ、笑っているぞ。そうだ、そいつもお前を嘲笑うために、嘘を吐いていたのだ。その娘とどれだけ親しかった? 言ってみろ」
涙目になるアンディにサリアンナが駆け寄ろうとしますが、アイリーンの鋭い眼がそれを制止します。
「お前に友人がいないのは、お前が強くないからだ。だから魅力が無い。優しさなぞ人に求めるものではない。己が示した結果利益を得る事はあれど、他人に要求するものではないのだ」

アンディから一通りの話を聞いたアイリーンは、こうして嘆息する間もなく矢継ぎ早に言葉を吐き出していました。
彼女は彼女で苛々しているようでしたが、何か口を開かねばいられないという様子です。
そうして美しい声で放たれる事々は、情が深いとはとても言えませんが、どうもいつもの厳しい調子とは違うようにパーティの面々には聞こえました。
「そうだな……。まずはあのハイサムライに自ら挨拶をしろ。愛されたいだけだとしても、それくらいはしてみせる必要がある。勇気でも愛嬌でもくだらん努力でもいい。自分の価値を見せ付けられる者が、人の力を得る資格があるのだ」
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