彼らに纏わる話 021
「あっ」
宿のロビーの片隅にちょこんと座るアンディは、アイリーン達が帰ってくると、いつもぱっと表情を柔らかくして立ち上がります。
彼にとって、それは暗い迷宮に差した灯りのように感じられるからでした。
けれどもしかするとそれは、彼女達にしても同じ事だと言えるかも知れません。
何しろ地下深くというのは、いつだって侘しいですから。
その日、早速扉の方へ駆け寄っていったアンディは、六人を見て奇妙な感覚を覚えました。
ぼうとした目付きで、ろくに口も利かず、こちらをじっと見つめている彼女達。
それは何だか、よく知っている人に似た誰かのようでした。
おかしな言い方でしょうけれど。
「あの……」
「お前、本当にアンディか?」
「え?」
もちろん、アンディはどう答えればいいか分かりませんでした。
だから困っていると、次第に何だか怒られているような気がしてきて涙がこみ上げてきましたが、泣く事は出来ませんでした。
泣くと、アイリーンに強く叱られるからです。
「僕、魔法の、言われてた魔法の勉強、してました……」
たくさん考えてからそう言うと、アイリーンはただ、そうか、と呟きました。
「そうか。ここは本当に十一階か」
六人はすぐに出て行ってしまい、アンディは再び一人きりになりました。
KATINOしか唱えられなかった彼も、今ではいくつかの魔法を使いこなすようになっていました。
人は変わっていくようです。
彼もまた、この迷宮に生きていかなくてはなりません。
ここの住人達は皆怖くて、皆変わっていましたが、しかしアンディは今日も宿屋の片隅で、言い付けられた道具磨きと呪文練習をしています。
それは誰かが望んだり、羨んだり、願ったりした事なのかも知れません。