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『wizardryで物語る』 Appendix Story
彼らに纏わる話 023

この静かな街の中にあっても、武具屋には時に喧噪が起こるようです。
今、冒険者達は決して油断しないでいるものの、どこか休戦然としたムードも漂い始めていて、情報交換だの道具の売買だのがあちこちで行われ始めていました。
まるでお祭りのよう、なんて気の抜けた表現は出来ませんが、それでもアンディにとっては久しぶりの賑やかさで、少しだけ気分が高揚しているようです。

「オクサナちゃん、何してるの?」
一緒に店へやってきたオクサナに聞くと、振り返った彼女は眼をキラキラさせながら答えます。
「これ見て! これは良いよー。ティエンルンの角だね。こんな綺麗なのあんまない!」
「何に使うの?」
「削ったのを溶かして飲むのもいいよねえ。フリージーの粉末と合わせると、やばいよ!?」
「へええ、美味しいのかなあ?」
「スカッ!とするの。それとすっごく頑丈だから、武器の柄にするのもいいよ。ここじゃあなかなか材料ないもんね。でもイエティの尻尾を巻き付けて……」

アンディには、オクサナの言う事はどれも新鮮でした。
彼女は物知りだったし、いつも面白い事がないかと考えを巡らしているらしく、この地下深くにあってはアンディにとっての数少ない楽しい話し相手でした。
オクサナも、自分に興味を示してくれるアンディが好きでした。
知らない事を知れば喜び、面白い遊びなら面白いなあと言い、悲しい話なら悲しいねと涙ぐむ幼いアンディは、この世界の中で最も多くの物事を楽しめる友人なのです。
彼女はよく自分で遊びを考えて、それにアンディを誘いました。
年相応の反応を見せるアンディの前では、オクサナもまた、ただ楽しむために生き楽しむために遊ぶ子供のようでした。

「どうだ? ウチと一緒に来て良かったでしょ?」
「うん!」
「ふふん」
とその時、遠くからカヤが右手を振り上げながら駆けてくるのが見えました。
「こらー! あんた!」
周囲は有名な酔っ払いが大騒ぎを持ってきたと思い、慌てふためきます。

しかし彼女は、オクサナがアンディにおかしなちょっかいを出していると考え、それを止めさせるためにこの階層を走り回って二人を探していたのです。
これはよくある事でしたので、オクサナもすぐに察しが付いて、カヤにあっかんべーをしました。
そして不思議そうな顔をしているアンディにひらひらと手を振ると、小さく「またね」と言って通路の闇へと紛れて行ってしまいました。
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