彼らに纏わる話 024
まるで潮が引くように、一切の音が引いていきました。
大量のストーンフライを仕留め損なった瞬間から、あらゆるものを停止させるブレスが彼らを包み込んだのです。
何も聞こえませんでした。
それからカヤが顔の前で組んでいた腕を解いて見たのは、石と化した仲間達でした。
ゾフルは石像となっても先頭に仁王立ちして、味方を守っているように見えました。
オクサナは前を見つめながら笑ったような表情で固まっています。
サリアンナは日々の続きのように呪文を詠唱しようとし、サイードはまるでその剣でブレスを切り裂こうとするかのように、静止していました。
死がじっとこちらを見つめていると、時間すら置き去りにされそうになります。
しかし直後にカヤの脇を回転する刀が通り過ぎ、ストーンフライの一群に突っ込んでいったかと思うと、そこへ颯爽とアイリーンが躍り出ました。
彼女は続いて脇差しまで投擲し、それは攻撃の意味こそ成さなかったものの、第二波を多少なりとも遅らせたようです。
「撃つぞ! 合わせろ!」
やけになった訳ではないようでした。
既にMADALTOを唱え始めていたその声は、生命力に満ちていたからです。
それが当惑していたカヤを突き動かして、二人は氷の嵐で敵の勢いを押し返しました。
状況は改善したでしょうか?
そう簡単には言い切れません。
ですがカヤは気付かぬ内に、口の端だけで笑っていました。
「あんた大したもんだわ」
カヤにしても、死への覚悟は常に持ち続けてきたつもりです。
そして誰より諦めが悪いからこそ、ここまで生き残ってきたのです。
しかし猶予が少ない中で決して焦らずにいるというのは、確かに必要な態度ではあるものの、この状況で一歩を踏み出せる力ではないというのが真実でした。
アイリーンは今、本気で勝ちを追っていました。
カヤはその単純な強さに感嘆したのです。
指示は鋭く、凜としています。
正しいのか間違っているのかなどという無駄な段階を一切挟ませません。
過去も未来も無数にあるように思われる選択肢ですが、その何もかもを理解してから動ける事などあり得ないのだと彼女は以前も言っていました。
「大事なのは、皆に見えている状況の先を知る事だ」
アイリーンの魔法を見る機会はそう多くはないでしょう。
それにしても基本に忠実な綺麗な魔法を撃つのだなと、カヤは思いました。
そして二人は石像の周囲を飛び回る敵達を蹴散らしました。