彼らに纏わる話 004
薄暗い路地でサイードが抱く感情は、灰にしてしまったゾフルへの罪悪感などではなく、ただアイリーンの役に立てずにいるという忸怩たる想いでした。
彼は低い声で、アイリーンに耳打ちします。
「見ましたか? あの老人が蘇る様を」
「死んだ事を忘れたかのように、笑っていたな」
「灰が集合し、その姿を取り戻す時です。地面の土塊や石や木ぎれまで、取り込まれたように見えました」
「つまり?」
「つまり……。あの老人、本当に生きているのか、と」
「回りくどい言い回しはよせ。くだらん憶測も好きではない。あれは今も立派に動いているではないか」
「……すみません」
「ケケケ」
突然湧いた気配に二人が振り向くと、そこにはオクサナがいました。
いつからかは、分かりません。
「あれは殺しても死ななさそうなくらい元気じゃからの。ひょっとすると、ロストしてもしばらくしたら、その辺の石壁からぬっと這い出してくるかもな」
そして彼女がカラカラ笑うと、その声は迷宮の中をいつまでも木霊していました。