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『wizardryで物語る』 Appendix Story
彼らに纏わる話 040

「あーあー。……頭痛い」
目が覚めた時の頭痛で、カヤは前日の酒の深さを測ります。
もはや日常に組み込まれてしまったその行為ですが、酷い時には未だに激しく後悔するのだから自分はまだ大丈夫だ、と彼女自身は思っているのです。
勿論、その後悔が日没後に活かされる事はありません。

窓から差し込む光によれば、もう昼を回っているみたいです。
照らされる床をぼーっと眺めていた彼女は唐突にゲップをして、それを合図にのそのそと動き始めました。
それから、今日は手紙を書こう、と思い付きました。

カヤは、アレクシスと二人のチビに便りを送るのが大好きなのです。
しかし簡単な言葉しか読んだり書いたり出来ないために、彼女の手紙にはいつも絵が描いて添えられるのでした。
不器用で、大抵は大きく描きすぎてバランスの悪い絵でしたが、子供達はそれを本当に楽しみにしていました。

とりあえず紙を買いに行かなければならないし、そのためには、まず小食堂にでも行って腹に何か入れる必要がありそうだ。
そんな風に考えたところで、彼女は今し方脱ぎ捨てたえんじ色の服に眼を留めました。
そしてそれを拾い上げて入念に匂いを嗅いでから、一言「温泉行こ」と呟きました。

「温泉……!」
サリアンナが部屋の隅にいたのに気が付いたのは、その時です。
「な、何であんたここにいるのよ!」
酒代のために宿は拘らないカヤでしたが、ベタベタされて困るために、サリアンナと一緒に寝泊まりするのはいつも避けていました。
とはいえ、咄嗟の事であまりにもつっけんどんな言い方になってしまったようです。
サリアンナは俯いてしまい、「ドジャー商店、行きたかったの。でもカヤは寝てて、鍵は開いてて……」と小さな声で言い訳をしました。

カヤはばつが悪そうに頭を掻きました。
しかし彼女はすぐに、忙しい今日の予定に変更を加えます。
それから最近吹くようになった春風のように優しく笑いかけて、言いました。
「先にご飯と温泉よ。一緒に行く?」
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